【団塊ひとり】東北の企業の技術流出を防ぐ超法規的な支援を

団塊ひとり】東北の企業の技術流出を防ぐ超法規的な支援を

 スカイツリーが採用した“絶対にゆるまないネジ”を制作しているハードロック工業社の社長若林克彦さん(77)が産経新聞で次のように述べている。

 昨今の「金さえあれば何でもできる…」といったような風潮ががまんならないという。日本の技術を追っかけてきたアジア諸国の中にも、こうした“無法なやり口”で、強引に技術を盗もうとする国が少なからずある。

 「日本の企業と合弁でプロジェクトを立ち上げておきながら、メドが立つと、『ハイさよなら』と追い出してしまう。でも実際は、日本が何十年もかけて開発した技術をわずか3、4年でまねしようったってできないんですよ」。その国は若林さんのネジの模造品も多数作っているが、結局、品質面では及ばない。

 同時に、日本の“脇の甘さ”も気になる。「先端技術を持った技術者が外国に引き抜かれ放題です。このままじゃ日本はジリ貧ですよ。どうしたら付加価値が高くまねができない商品を生み出せるか。行政も一緒になって知恵を出し、体制をつくらねばなりません」(産経新聞5月8日)

 東日本大震災でビクともしなかった東京スカイツリーで使われた世界唯一の技術を発明した人物の実に含蓄のある警鐘だ。

 大震災で疲労した日本。被害を受けて再建のめどの立たない優秀な技術を持った東北の中小企業。それを買いあさろうとアジアの一部の国が触手をのばしている。それだけではない。倒産した老舗の旅館も買収。秋葉原電気店も買収。もちろん旅館や企業の買収は法にふれない限り文句をつけることは出来ない。

 しかしその国は工場の一極集中がいかに危険かを述べ、自国への技術移転を歓迎している。甘言に乗ってはいけないと思う。過去20年間の日本と「アジアの国」との関係を見ればわかる。技術をあるときは無償で提供してまで、その国の発展を援助してきたのに、結果は技術だけではなく雇用も奪われ日本経済は一部の「勝ち企業」をのぞけば惨憺たる結果になってしまった。資源のない日本にとって技術はかけがえのない「資源」である。それを放出したら、何も残らない。これ以上の技術流出や工場移転は、一時はその企業や技術者個人の利益にはなっても長い目で見れば日本の国益にはならない。きつい表現を使えば国を裏切る行為、国を売る行為といわれても仕方がない。

 ある独裁国家で経済的成功を収めることは、別の視点にたてばその独裁政権を支持することだ。そしてその政権に支配されることでもある。もしその国が反日政策を採っていれば、それを間接的に支持することである。安価な労働力だけを理由として、ある国に進出しても賃金上昇による経営悪化や、用済みになって捨てられて日本に戻って来ることもあるかもしれない。そのときにその企業や個人ははたして以前のような居場所を確保出来るだろうか。あるいは戻ることを断念して、「倭僑」として軽蔑と警戒をもたれながらアジアの国で生き延びていくのだろうか。

 あらっぽく述べれば、外国で1万人の雇用を生み出せば、それは日本で1万人の失業者が出ることを意味する。それが経済だ。結果がすべてだ。何を甘いことをいっているのだ、と経済人には馬鹿にされるかもしれない。商売人に志を説いても無駄なことはわかっている。誰でも金は欲しいし、霞を食っては生きることは出来ない。生きるために企業を「売却」することを一概に責めることは出来ない。だから、いまこそ超法規的な政治の在り方が問われている。被災して体力の弱った企業を見殺しにしてはいけない。日本人が培った「技術」を買いたたかれないように政治家は努力すべきだ。そして各地の地方自治体も東北の企業に対して企業誘致を働きかけるなど支援策を打ち出すべきだ。しかし政権には全くその気配が見えない。なんとも歯がゆい。

 企業も技術者も一企業、一個人の利益だけではなく、そろそろ企業の社会的役割や、政治的影響、日本国の利益も考えるべき時に来たのではないか。そのためには企業も一部役員が高給をむさぼるのではなく、地道に働く社員、特別な技術を持つ技術者に対して正当な待遇を保証し、優秀な頭脳の海外流出を防ぐべきだ。