【団塊ひとり】平成の楽市・楽座 東北に復興特区を

平成の楽市・楽座 東北に復興特区を

 宮城県の村井知事が民間参入を促進する「水産業復興特区」の創設を政府の復興構想会議で特区創設を提案するという10日付の「河北新報」の記事が目に入った。

 県は、養殖や定置網などの沿岸漁業は個人経営が多く、養殖施設などの自力再生には限界があると判断。早期復興には民間資本の導入が不可欠として漁業権の開放に踏み込むことを決めた。
 特区では、民間企業による独自の操業が可能になる。県は、参入企業として(1)地元漁業者が民間資本を得て設立した漁業会社(2)地元漁業者を社員に含む総合商社―を想定。漁業者が安定収入を得るサラリーマン化することで、後継者不足の解消につながると期待する。(中略)民間参入の前段階として、県は震災後に整備した漁船や養殖施設の減価償却費、人件費などを一定期間、国庫で補助する「震災復興水産業再生・再構築支援事業」を創設し、水産業を一時国有化することも提案する。
 村井知事は取材に対し、「100年後も日本を代表する養殖漁業であるためには、ハイリスク、ハイリターンの個人経営では続かない。22世紀型漁業のモデルを宮城から提案したい」と語った。
河北新報より)

 「漁業権の開放」という、既得権を侵害するところもあるので、漁協関係者の反発も予想されるだろうが、被災地から提出された復興の具体的な提案は、検討すべきものがあるように思われる。

 私は今回の震災の直接的影響を受けていない関西に住んでいるので偉そうにはいえない。しかし写真で見ただけでも今回の震災による被害の状況は、空襲で焼け野原になった昭和20年の敗戦を迎えた日本の光景に実によく似ている。東北の被害写真を戦災の写真に忍ばせておいたら、見分けがつかないようにも思われる。それほど大きな未曾有の災害だった。今回の大震災が戦災に匹敵するようような被害であったとすれば、とても一地方の努力では賄いきれない。平常の法律、考え方を捨てて非常時に対応する対処法が必要だ。

 すでに多くの人たちが東北の「復興」について、様々な提言を行っている。しかしその多くは観光客を呼び込むことや、東北の物産の販売促進協力などの対症療法的な提言が多い。道路や鉄道や都市の復興などのインフラ整備は「提言」というより当たり前のことであり、ここでは考えない。今回私が宮城県の提言に注目したのは、限定的ではあるものの漁業協同組合が持つ既得権益との衝突を恐れなかった点だ。これは知事という立場からは相当勇気のある提言だ。票と関係するからだ。それでも提言しなければならないほど、実情は深刻なのだろう。

 宮城県の提唱した漁業に関連した復興特区は、国有化という統制的側面や地元漁業者を含むという保護主義的な側面はあるものの、「漁業権の開放」という点に絞れば、形を変えた平成の楽市・楽座の世界が生まれる可能性を秘めている。もちろん漁協を旧勢力と見なして、悪者扱いするつもりはない。ただ、この「非常時」にあっては、信長のような強力な指導力のもと、思い切った措置が必要だ。そのためには過去を振り切る勇気、提言を一歩進めて土地出身者にこだわらない勇気も必要だ。単なる「復旧」ではなく、新しき再生としての「復興」を目指すならなおさらだ。非常時には蛮勇も時には美徳に変わる。漁業だけにとどまらず「経済特区」を設定して、そこでは被災地の企業だけではなく日本や、海外の企業を対象として、一定期間税金を「免除」するなどの思い切った政策も考えてもよい。地域の発展は、地元の新しい雇用を生み出し、思わぬ発展を生み出す。

 昭和20年以後の日本は、いままでの「負の遺産」を大胆に切り捨てて再出発した。その中には切り捨ててはいけないものまで切り捨てるという誤りも犯し、それは未だに解消されてはいない感があるものの、おおむね「望ましい」方向に進んでいったように思われる。何よりも戦後日本の「驚異的」な発展がそれを証明している。

宮城県が漁業で打ち出した提言は、一地方の漁業復興政策という側面にとどまらない。例えば農業の分野。少子高齢化がこのまま進むとしたら、農業の後継者不足は明らかだ。従来の農業従事者以外の新しい発想による農業が求められる。それが容易になるような政策が必要だ。発想の思い切った転換が必要だ。

 もちろん中世の楽市・楽座をそのまま現代に適用することには無理がある。しかしその発想は十分有効である。まず東北地方に、いろいろな制限を取り払った「平成の楽市・楽座」(経済特区)を設けて日本経済「復興」の一里塚にできないか。そこから新しい日本が生まれる可能性はある。

 塞翁が馬という格言もある。あの戦争の荒廃から立ち直った日本だ。震災という「天災」を転じて福となす知恵は日本人には備わっている。これを契機に、被災地だけではなく我々ももう一度自分たちの生き方を、国の在り方を考え直してみたい。