相撲道の復興

 今回の大震災で忘れられていたが、大相撲にも激震が起こっていた。八百長を証明するメールが発見されたからだ。その結果、今まで証拠がないため、すべての裁判に勝利し週刊誌から賠償金まで取った協会が、その週刊誌から偽証罪で訴えられている。報道の信頼を傷つけられ、賠償金まで取られた週刊誌側にとっては逆襲の機会が訪れた。

 政治家は都合の悪いことを「秘書」のせいにするが、力士は「妻」のせいにするらしい。携帯を妻が踏んで壊した、などと児戯に等しい言い訳がまかり通ると思っているところがなんだか政治の問題と構造が似ている。少なくとも国技の担い手を名乗るプライドは感じられない。

 問題解決は簡単だと思う。八百長は政治家の汚職や、金銭疑惑と違って刑事事件にはならないのだから、いっそ協会は「八百長」は相撲の文化だと開き直ればいい。もちろん「八百長」といえば聞こえが悪いので「人情相撲」と言い換えればいい。私たちは義理や人情を重んじる日本人の国民性を尊重して相撲道に精進している。負け越しで仲輭が降格するのをただ見るのは人情として忍びない。昔から「武士は相身互い」というではないか。それに基づく行動は日本人の精神に相反するものではない。降格の崖縁に立たされている仲輭に助けを送る。この扶助の精神こそ、まさしく国技にふさわしいではないかと。協会がこう言ってくれればすべて解決する。しかしそれには公益法人の資格を放棄することが前提となる。

 一説に8割以上の力士が八百長に手を染めているという。もしその8割が八百長の認定を受ければ公益法人としての今の相撲協会は成り立たない。八百長問題は最終的には「藪の中」の問題になりやすく、完全な解決は不可能に近い。方法はいくつかあろう。一つは先ほど述べたように「八百長は相撲の文化」だと居直る方法。しかしそれでは誰も真剣に相撲を評価しなくなる。かつては花形スポーツの一つだったプロレスが、一種のショーだとされ大新聞のスポーツ欄から消えた結果、プロレスの人気も下降していった。だから潔く公益法人を返上し国技の看板を外し、プロレスのように興業団体として新しい「相撲道」を探求する決心はつかないだろう。その時相撲は「国技」から完全に滑り落ちる。しかし、もう一つの方法は、今までの体質に厳しい鉄槌を下し自ら再生・浄化する道を選ぶ方向である。

毎日新聞より】
 弟子の八百長関与が認定された北の湖陸奥、九重(55)=元横綱千代の富士=の3親方が、日本相撲協会の理事を辞任する意向であることが、協会関係者への取材で明らかになった。
 3親方はいずれも弟子への監督責任を問われ、特別調査委員会から協会に提出される報告書で処分を求められることが確実になり、周辺に辞意を漏らしていた。
 ある協会関係者は「3人とも処分を受けることは間違いない。解任されるのは、協会にとっても、本人たちにとっても不名誉なことなので、辞任することにしたのではないか」と話した。
毎日新聞 2011年3月31日 22時20分)

 どうやら相撲協会は厳しい道を選択したようだ。相撲が真に「国技」としてふさわしい「スポーツ」なのか否かは今後を見守るしかないだろう。