【団塊ひとり】また会う日まで、さようなら、コロンボ刑事

 
 個性的な人が亡くなった。

テレビドラマ「刑事コロンボ」に主演し人気を博した米国の俳優ピーター・フォークさんが23日、ロサンゼルス近郊ビバリーヒルズの自宅で死去した。
 83歳だった。米メディアが一斉に報じた。
 死因は明らかにされていない。2008年にアルツハイマー症であることが報じられていた。
 ニューヨーク出身。大学卒業後、1956年にブロードウェーで舞台デビュー。60年の映画「殺人会社」、61年の「ポケット一杯の幸福」でアカデミー賞助演男優賞候補に選ばれた。
 持ち味を最も発揮したのが68年から放送の「刑事コロンボ」。もじゃもじゃの髪の毛に赤ら顔、よれよれのレインコートを着て、手には安っぽい葉巻というさえない風貌ながら、犯人をじわじわと追いつめて難事件を解決していくロサンゼルス市警の敏腕刑事役を好演した。ドラマは日本でも小池朝雄さんの吹き替えとともに人気を呼び、得意のせりふ「うちのかみさんがね」は流行語となった。
                            (2011年6月25日読売新聞)
 
 TVの番組欄を見ると、再放送を含めてほとんど毎日何らかの形で推理ドラマが放送されている。
私は推理サスペンスものが好きでよく見る。特に西村京太郎の十津川警部シリーズは私の好きな番組の一つだ。十津川警部というから奈良の十津川出身かと思っていたが、実は「東京の世田谷区の新開地(昭和17年当時)で生まれ、東京で育っている」らしい。(「十津川警部の履歴書」(コアラブックスより)

 人気番組だけに、演じる俳優も多彩で、三橋達也を嚆矢として、天知茂高島忠夫夏八木勲宝田明若林豪石立鉄男小野寺昭高橋英樹渡瀬恒彦など当時の代表的な人気俳優が演じている。そのなかで私は渡瀬恒彦さんの演じる十津川警部が一番好きだ。今では渡瀬恒彦さんは十津川警部のイメージそのものになっている。

 外国の探偵も多彩だ。コナン・ドイルのホームズ、クリスティのポアロなど、すばらしい探偵が目白押しだ。しかし私はピーター・フォークさん演じる刑事コロンボが一番好きだ。ミステリー小説でいう倒叙物の形式をとっていることも魅力だった。

 コロンボのキャラクターのモデルはフョードル・ドストエフスキーの「罪と罰」に出てくる、ポルフィーリ・ペトローヴィチ予審判事である。しかし私は長い間それに気づかなかった。「罪と罰」はずいぶん以前に読んだが、コロンボと関連づける読み方は出来なかった。ところがある時江守徹さんの「罪と罰」の朗読を聞いたとき、刑事コロンボに似ていると思った。でも確証はなかった。

ペトローヴィチ予審判事もコロンボも見た目が冴えない人物として描かれる。対する相手は多くが特権階級か特権意識をもっている人物だ。彼らは自分の犯行が完全犯罪になるという確信を持っている。それを明快な推論や高度な心理テクニックを駆使して追い詰めてゆく。これが実に面白い。そしてピーター・フォークさんはまさにうってつけだった。

 刑事コロンボから私は一つの台詞を借用している。それは「うちのかみさんがね」という台詞である。文章では「妻」と書くが、日常会話では私は多用している。台詞の一部とはいえ私の日常に入り込んだ刑事コロンボ。その人が亡くなった。また会う日まで、さようなら、コロンボ刑事。