【団塊ひとり】入管、手配犯4人出国させる…警告表示も見逃す 本当に「見逃し」なのか?

 ずいぶん前のことだったが、有名な男性歌手H・Gが祗園の芸者と「関係」を持ち、それを芸者が週刊誌に暴露した事件があったことを覚えている。「事件」自体はそれほど珍しいことではなかったが、新聞に載ったある識者のコメントが妙に印象に残った。それは、伝統を守り口が堅いはずの「祗園」社会でさえも崩れはじめている、今後、気をつけなければ日本社会の崩壊はさらに進んでいくだろうという内容だった。今から思えば慧眼だったと思う。教育界、法曹界、経済界、マスコミ、政治家など多くの分野で溶解が進行しているように思われるからだ。

 もし入り口が弛緩した状態であればどうなるか。施錠がなされていない家には、泥棒は入りやすい。パスワードがメモされているカードは誰でも引き落とすことが容易だ。世界的な感染症が発生したときに、防疫態勢がなされていなければ、国民の大量死を招く可能性もある。

 入国管理局は世界と接触する最初の関門である。ここは神経質なくらい厳格であってほしい。テロリストを入国させることはないか、残忍な犯罪者を出国させることはないか、慎重であってほしい。しかし現状はどうなのか。

 今年6月までの半年間に、詐欺や窃盗で指名手配されていた容疑者4人について、入国管理局が気付かずに成田空港などから出国させていたことが分かった。
 過去にも同様の問題が発生していることから、警察庁法務省入国管理局に再発防止を要請した。
 警察当局などによると、出国したのは外国人を含む指名手配犯で、空港や港の入国管理局のデータベースに名前や旅券番号などが登録されていた。いずれも実名の旅券で空港から出国していて、審査官の手元にあるデータベースの画面に警告表示が出たが、見逃していたという。(読売新聞:7月29日)

手配外国人4人、国外逃亡 警告、出国審査で見落としか
 警視庁などが指名手配していた外国人4人が今年1〜4月、出国審査の人的ミスで国外に逃亡していたことがわかった。法務省入国管理局が28日、明らかにした。昨年以前にも同様のミスで外国人が逃亡した可能性があるという。
 外国人に逮捕状が出た場合、警察庁から入管に連絡が入り、出入国審査システムに氏名や生年月日が登録される。出国審査の際に旅券を調べれば、入国審査官のコンピューターに警告が表示される仕組みになっている。
 同省や警察庁によると、4人は中国人らで、窃盗や詐欺容疑で指名手配されていた。審査システムにも登録されていたが、審査官が画面上の警告を見落とした可能性が高いという。成田空港から2人、中部、関西両空港からそれぞれ1人が出国していた。(朝日新聞 7月29日)
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 その他の新聞も多くは「審査官の手元にあるデータベースの画面に警告表示が出たが、見逃していたという。」という解説がついている。マスコミもずいぶん「ゆるい」記事を書くと思った。

 団塊の世代である私には、1979年にソ連からアメリカ合衆国へ亡命した元ソ連国家保安委員会(KGB)少佐スタニスラフ・アレクサンドロヴィチ・レフチェンコの証言が忘れられない。

当否は分からないが、証言によればレフチェンコは日本のあらゆる階層、特に政治家(野党であった社会党はもちろん、当時の与党自民党議員も含む)や財界、政府に不満を持っている官僚やジャーナリスト(驚くべき事に当時反ソ的と思われていた産経新聞の記者までも含まれていた)を情報提供者としたスパイ網を構築していた。いわば日本中が「汚染」されていて、マスコミはソビエトを批判する記事を控えるようになり、巧みに世論を操作していった。それは現在の日本社会と驚くほど似た状況であった。

 たんなる娯楽と考えられた「映画」でも、「ひめゆりの塔」は教師がこぞって推薦したが、中立条約を破って樺太に侵攻したソビエト軍の実体を描いた「氷雪の門」は、日教組などの反対で反ソビエト的という理由で全国上映が中止された。(一部地方で自主上映)明らかな表現の自由に対する弾圧である。

 今回の「事件」は本当に「審査官の手元にあるデータベースの画面に警告表示が出たが、(中国人たちを)見逃していた」だけなのかもしれない。しかし担当者がもし工作員で協力者だったとしたら、これほど恐ろしいことはない。法務省入国管理局は、担当者の再教育はもちろん職員の身元調査をはじめとして厳しいチェックを行い、結果を公表すべきだ。そしてマスコミも単なる「みのがし」事件ですますのではなく、独自の調査をするべきだと思う。そのことでマスコミの記者自身が「身の潔白」を証明せざるを得ない時期がやがてくるはずだから。