【団塊ひとり】広島異例の夏 首相改めて「脱原発」してソフトバンク村へ直行か?

 「脱原発」。カン首相はどこまで本気なのか。もし「原爆の日」の記念式典の発言が、自己の政権延命のための方便だとしたら、これほど被爆者や国民を愚弄する発言はない。今年1月の施政方針演説では「私自らベトナムの首相に働きかけた結果、原発施設の海外進出が初めて実現します」と原発受注の成果を自賛していた(産経新聞より)ではないか。先頃まで原発ビジネスの熱心な推進者だった首相は突然の豹変を諸外国にどのように説明をするのか。国内では「脱原発」をうたい、海外には原発を売りつけようとする。しかも矛盾を矛盾とも自覚せず、その場の雰囲気にアメーバのように反応する。もはや単なる「市民活動家」ではないのだ。一国の首相になったのだから、将来の展望・理想を語ると同時に現実にも目を向ける必要がある。しかしその自覚は全く感じられない。日本人として恥ずかしい。

 確かに福島の原発事故はあってはならぬものである。だから原発は絶対安心と言ってきた電力会社や自民党政権の責任は重大だ。が、CO2を25%削減し、地球温暖化阻止に尽力する、と世界に大見得を切ったハトヤマ首相の根拠は原発あればではなかっただろうか。

 再生可能エネルギーとしての太陽光発電の普及には私は賛成であるが、しかし現状では、個人規模の電力はともかく、企業が安定して利用できる電力を完全にまかなえるとは思われない。豪雪地帯や多雨地帯では一年の半分ほどはその効力を失うだろう。仮に日本全国にソーラーパネルを設置していくとしても、安定した電力を供給するためには当分は化石燃料を併用する他はない。そうするとCO2が大量に発散され、地球の温暖化はますます加速される。また休耕田に敷き詰める案もあるようだが、これから食糧自給が問題になるというのに、そのときに支障になるのではないか。思いつきや一時の不安心理につけ込んだ、霊感商法的なつなわたり政治をするからあちこちに矛盾が頻出してくる。

 唯一の被爆国日本が原発を選んだのもそれがエネルギー小国の日本として生き残る最大の道だったからではないか。クリーンエネルギーとして地球温暖化を阻止する重要な手段と考えられたからではないか。しかし現実には大きな負の要素を持っていた。すべてに陰陽、長短があるとすれば、いまはバラ色のように見える再生エネルギーにも、避けては通れない欠点があるはずだ。しかし、いまそれを真剣に取り上げる政治家もマスコミも少ない。一国のエネルギー政策は50年、100年の単位で考えるべきものである。だから一部の政治家だけではなく、広く国民を巻き込んだ討論が必要だ。しかしそのような場所が設定されているとはとても思えない。バラ色だけを、または暗黒面だけを必要以上に強調するのはそろそろやめようではないか。

 原発反対論者のちょっと卑怯な点は、日本の最新技術で作られた日本の原発を対象にせず、40年も前の旧式の外国製の事故を問題にしている点である。そして事故をおこした福島原発だけを取り上げ、同じように津波の被害を受けながら事故を起こさなかった女川原発にはあまり触れていない点である。その点で反原発の急先鋒と思われる朝日新聞が次のような記事を載せているのは、評価できよう。

 福島第一原発から北に約120キロ離れた太平洋岸にあり、三つの原子炉が並ぶ女川原発福島第一原発を襲った津波は高さ14メートルを超えたが、女川町を襲った津波は17メートルクラスだったとする調査結果が出ている。津波で、女川原発の1〜3号機のうち、2号機の原子炉建屋の地下3階が浸水したが、原子炉を冷やすために不可欠な電源が失われることはなかった。
 女川原発の安全審査で想定した津波の高さは最大9.1メートル。想定を大きく上回ったのは、福島第一原発と同じだ。それにもかかわらず、被害が小さかった理由について、東北電力は「詳しい経緯は今後の調査を待たなければならないが、余裕を持った造りが大きかったと考えられる」と指摘した。
 「余裕」が最も表れているのは、原子炉建屋の海面からの高さだ。同原発の主要施設の標高は14.8メートルあり、10メートル前後だった福島第一より高い。女川原発は2号機の熱交換器室が浸水の影響で使えなくなった1系統を除き、非常用電源が正常に稼働した。施設の位置の高さが津波の被害を防いだ可能性があるという。(2011年3月31日朝日新聞より)

 問題なのは原発そのものの致命的な欠陥なのか、東京電力東北電力という会社の在り方の違いなのか。そこも重要な点ではなかろうか。

 現時点では私は民主党の掲げる再生エネルギー法案には反対だ。今のままでは原子力村からソフトバンク村に乗り換えるだけで、新たな利権構造が生まれる危険がある。

 先日、私は石巻に行ってカン首相や民主党がどれだけ人気がないのかを実感してきた。しかし、本来ならこれほど失点の多い民主党に対して自民党の得点が上がるはずなのにそうなってはいない。確かにカン首相や民主党は日本の政治を混乱させた張本人である。が、野党はカン首相を辞めさせることに貴重な時間を費やすのではなく、民主党には出来ない建設的な提言を打ち出し、被災地の苦境を救い日本の未来を安定させるような政策を打ち出すべきだ。それが出来ず、過去の「野党」のように反対ばかりしているから支持率が上がらない。

 お互いが負の政治をする限り、迷惑するのは国民である。与野党を問わず、永田町の政治家は猛省してほしい。