【団塊ひとり】尖閣諸島をめぐる石原知事発言とその影響

 前から多少「予告」していた爆弾発言の内容が明らかになった。石原知事の尖閣諸島の購入方針の表明である。が、決して思いつきの発言ではないことはいろいろなことから証明される。

 まず発表の舞台がワシントンであること。大阪維新の橋下市長や石垣の中山市長も事前に了解していたこと。現在の島の所有者ともある程度の了解がなされていたことなどでわかる。

 発言に対する反応も見事に「予想」されたものである。領有権を主張している中国や台湾はさっそく反対意見をのべている。ただし、現在の時点ではブログやマスメディアによる反論であり、中国首脳の直接の反応ではないことに注目すべきだろう。日本最大の中国情報サイト「サ−チナ」の記事を引用する。

 東京都の石原慎太郎知事が尖閣諸島(中国名・釣魚島)を購入すると発言したことについて、中国各メディアも17日に報じた。財訊網は、「中国の主権領土であり、日本が一方的に売買するのはでたらめの極み」と反発している。
 財訊は、東京都が尖閣諸島の購入を検討しており、すでに「土地所有者」の同意を得て年内に売買契約を結ぶ予定だと石原知事が16日に述べた、と伝えた。
 記事は石原知事を「前科累々の極右分子」と呼び、「放言が大好き」で、「有名な言説は南京大虐殺は虚構だったというもの」と紹介した。
 しかし「釣魚島の購入は石原の独創ではない」と指摘。2011年の「夕刊フジ」の報道として、「中国側が40億(※原文に単位なし)で釣魚島の購入を持ちかけたが、“所有者”が国家の利益を考えて拒絶した。報道によれば、その島主は埼玉県の実業家で、周辺海域の資源が注目されるようになって中国が釣魚島に野心を示し、価格が跳ね上がっていったと話した」とも伝えた。
 知事の購入発言は「重要な概念が混乱している」とし、「釣魚島は個人の所有ではなく、中国の主権領土である。日本が一方的に売買するのはでたらめの極み」と批判した。「売買してもせいぜい国内資源を循環させるだけ。東京都がそんな大損をしても平気なら、全く根拠のないその金を支払えばいい」
 「たとえ日本が一方的に売買したとしても、国際法上は何の効力もない。夢の中のたわごとにすぎない」と述べ、最後に「釣魚島は永遠に中国の領土である。日本はいかなる形でも占有などというでたらめを考えないことだ」と締めくくった。(編集担当:阪本佳代)

 また日本紙でも中国寄りの新聞社は石原発言を批判し矮小化しようとして次のように述べている。

「中国を利する発言」
 作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんは「今回の発言には二つ要因がある。ひとつは、石原氏が領土問題に敏感で高い国防意識を持っていること。もうひとつは『石原新党』が白紙に戻った中、領土問題で強硬姿勢に訴えれば、お金を使わず国民人気を保ち続けることができること。日本政府はこれまで『尖閣諸島に領土問題は存在しない』と主張してきたが、今回の発言で中国との間に深刻な外交問題が生じれば『領土問題』になり、中国はしめたもの、と思っているだろう」と指摘した。(後略)(毎日新聞WEBより)

 中国との間に深刻な外交問題が生じることを恐れているようだが、そのように主張すべき時に主張しないから現在のような情けない状態になっているのだ。中国自身が「領土問題」は存在しないと言っているので『領土問題』になることは中国の利益にはならない。「中国はしめたもの、と思っているだろう」という感想は間延びしていて、外務省出身者はこんな程度なのか、という気持ちだ。

また共同通信の記事を引用した東京新聞の記事もなにかおかしい。

尖閣諸島、必要なら国購入も 官房長官、中国の反発必至
 藤村修官房長官は17日午後の記者会見で、東京都の石原慎太郎知事が表明した沖縄県尖閣諸島の購入方針に絡み、国による購入もあり得るとの認識を示した。国有化する可能性があるかとの質問に「必要ならそういう発想で前に進めることも十分ある」と述べた。同時に「都に情報提供を求めていきたい」と述べ、地権者との交渉状況を聞く意向も示した。
 藤村氏の発言に中国側が反発するのは必至だ。政府は尖閣諸島について「日本が有効支配しており、解決しなければならない領有権の問題は存在しない」との立場で、領有権をアピールする国有化はこれと矛盾する可能性がある。(東京新聞より)

 私有地を国有化することは、売買契約による純粋な国内の問題であり、どこが「矛盾」するというのだろう。また百歩譲って矛盾したとしても「領有権をアピール」することになんのためらいがあろう。

 日本の最西端に与那国島という島がある。その島は16世紀に琉球王朝支配下に組み込まれるまで独立国であった。その琉球が薩摩の支配下になる。やがて1879年の琉球処分と共に与那国島も日本に帰属することになった。ところで、戦後の混乱期を知っている年配の人は敗戦直後の1949年、与那国町長選挙で与那国の帰属が争点になったことを覚えているだろうか。3人の立候補者の一人は日本帰属論、一人は琉球独立論、もう一人は台湾帰属論を展開した。その結果日本帰属論者が選ばれ現在に至っている。(後藤明著「海から見た日本人」講談社より)もし台湾帰属論が勝利していたら与那国は今は台湾領になっていたはずだ。それほど戦後の国家主権喪失の状態は日本崩壊の危機をはらんでいたのだ。

 竹島が韓国に違法占拠されたのも、日本が米国の軍政下に置かれ主権を行使できない状態にあった時だ。だから、今の民主党無能政権の政治空白期間は非常に危ないのである。その事を思えば石原知事の発言は実に重い。

 今後知事の発言に対して様々な論評がなされよう。しかし、すでに藤村修官房長官が「必要な場合は国による購入もあり得るとの認識を示した」以上、石原発言の効果はあったものと考えられる。今頃石原知事は含み笑いをしているかもしれない。