【団塊ひとり】アベノミクス「三本の矢構想」と三矢研究


 昭和38年に朝鮮半島での武力紛争を想定した自衛隊による「三矢研究」なるシミュレーション研究が存在した。昭和28年に朝鮮戦争が休戦となった10年後のことである。「三矢研究」は、正式名称を「昭和38年度総合防衛図上研究」という。名称の由来は毛利元就の故事にならったとも、昭和38年の「38」から「三矢」の語呂合わせが生まれたとか諸説あるが、大切なのは今から考えても実に的確な研究だったことだ。

 しかし、この図上研究は、野党の社会党議員岡田春男によって問題視された。以後、防衛問題がタブー視されるという悪しき「伝統」が作られた。

 「三矢研究」なるシミュレーション」はどのような内容か。

 ウイキペディアに具体的なシナリオがまとめられているので、引用の形で見てみたい。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%9F%A2%E7%A0%94%E7%A9%B6

1.昭和3X年4月に第一動として韓国軍内の一部において反乱が起き在韓米軍がこれの鎮圧に出動、 この状況に呼応するように日本国内の治安情勢が悪化。
2.第二動として北朝鮮内でも動静が活発化し反乱軍に支援が行なわれる
3.第三動として38度線を北朝鮮を主体とする共産軍が南下し第二次朝鮮戦争が勃発し、続いて西日 本に対する武力侵攻の危機が高まる
4.第四動として韓国国内の情勢悪化にともなう日本国外からの武力脅威が増大し自衛隊は米軍との 共同作戦を開始
5.第五動としてついに西日本が攻撃を受け、北日本ではソビエト連邦による北日本に対する武力侵 攻の危機が増大し、朝鮮半島では戦術核が使用される
6.第六動としてはソビエト連邦が北海道に進攻を開始し自衛隊と米軍の共同作戦が本格化
7.第七動で日本全土に対するソビエト連邦軍による本格的海空攻撃が行なわれ、全戦場で核兵器が 使用され(この時点で日本は壊滅的損害を被る)、

 最終的にサハリン、北朝鮮満州中華人民共和国への反攻および核報復によってアメリカが勝利するという想定であった。(以上、引用終わり)

 ソビエト連邦がこの世から消滅し、中国との間に尖閣諸島を巡る新しい紛争が出現するという、当時は予測できなかった事態が出現し、シナリオに多少の変更が必要とは言え、半島を巡る情勢は恐ろしいほど的確に想定されている。むしろ「戦争」(第三次世界大戦というのではなく局地的な戦闘というくらいの意味)の危険性は増大してしまった。 

 北朝鮮が日本に対する核攻撃を公言した今、核戦争を想定した「三矢研究」のシミュレーションの正しさが証明された。それにしても日本にふりかかる想定すら禁止された異常な時代。戦後のある時期、日本は世界史的にみても実に異常な事態だった。もしあらゆる事態を想定することが禁止されなかったなら福島の事故も防げたかもしれない。想定外を考えない政治や経済活動は危険である。

 「三矢研究」から約半世紀。安倍首相の「三本の矢」構想ははるかに平和的だ。が、中国や北朝鮮によって日本は戦後有数の危機に瀕している。この危機にどのように対処すべきか。自衛隊法の改正などという小手先の改革ではなく、やはり憲法に手をつける以外に方法がない。しかし、相変わらずマスコミはこの問題を避けている。やがては真剣に向き合わねばならない問題だ。何時までも逃げるわけにはゆかない。

 日本の防衛を考えるとき、陸・海・空の三本の矢以外に海兵隊というもう一本の矢も必要かも知れない。特に離島防衛や局地防衛を考えるとき、今の体制には弱点がある。防衛費の増額や自衛隊国防軍化などを考えるときがきたのではないか。ただ国家間の大規模な戦争は起こりにくい状況だ。起こるとすれば局地戦闘やテロ攻撃だろう。あるいは工作員による日本社会への破壊活動だ。その備えが出来ているとは思えない。又、中国や北朝鮮が日本本土に爆撃を仕掛けたとき、それに耐えうる防空壕を我々は持っていない。正直、日本はとても戦争が出来る状態ではない。東北における復興事業に軍事的な防御の側面を「想定」することも必要だろう。何が起こるか分からない。あらゆる事態を想定する心構えが必要である。

 国防軍というとすぐに徴兵制の復活とか侵略を想像する人がいる。しかし、「国防軍」という名称変更は具体的な軍事的改変にとどまらず、むしろ「戦争」「日本への侵略」などを「想定」すらしなかった戦後日本人の意識革命を目指すものでなければならない。だからこれからも日本に徴兵制は必要ない。アメリカが徴兵制を廃止したようにハイテクを多用する近代的な軍隊では、有能な能力を持った少数の精鋭こそ必要だ。能力の低い人間はむしろ戦闘のじゃまになる。

 日本のマスコミが戦争の危機をあおり立てていないのは、ある意味で冷静な判断かも知れない。例えば中国が航空母艦を持ったが、あの程度の舟が1隻だけでは何も出来ないことは明らかだ。日本はすでに80年前に空母を中心とした機動部隊を持っていた。かつてソビエト航空母艦ミンスクを就航させたときは日本のマスコミは騒ぎ立てたが結局何も出来ずに廃物として最後は中国に買い取られた。

 日本は軍事大国を目指すべきか。それともアメリカの核にしがみついてコバンザメのように生きるべきか。それともこんな二者択一は無意味なのか。新しい日本の進路はどのようなものか。いずれにしろ日本が今おおきな転機にあることは事実だ。