【団塊ひとり】小説「半島を出よ」北朝鮮と日本侵略の可能性


 北朝鮮が侵略の意志をますます明確にしてきた。テロやアメリカ軍特殊部隊の急襲を恐れた父の金正日フセインになることを恐れて、逃げ回っていたことと較べると息子は随分勇ましい。大言壮語していたイラク軍は戦闘が始まるとアメリカ軍の前にはまったく歯が立たなかった。金正恩の父親は息子とは異なり現実をよく知る政治家であったようだ。

 金正恩の自信はどこから来るのか。世間知らずなのか、計算があるのか。ソウルは3日で落とせると豪語するが、前の朝鮮戦争は突然の奇襲だったので準備のなかった南を陥落寸前まで追い込めた。が、今回は南も十分な反撃体勢を整えている。仮に北が攻撃をはじめたら勝敗はすぐに決するだろう。

 勝敗を決めるのはアメリカや南朝鮮の力だけではないかも知れない。もし緒戦で効果的な結果を出せなければ、北朝鮮軍の一部が反旗を翻すことも十分考えられる。金王朝が倒れると利益を得る集団、あるいは光秀のように粛清の恐怖に耐えることの出来ない将軍はいるはずだ。CIAや南が北に持っている謀略網が力を発するかも知れない。10年にわたってビンラーディンを追い詰め殺害したアメリカの力を北は見くびってはいないだろうか。北が制圧されたとき、その時アメリカ軍は人肉を食うほど飢えて抑圧された北の人民にとって解放軍とみなされるだろう。

 北朝鮮が敗戦によって南に統一されることを中国は歓迎するか。それとも前回のように軍隊を送り込みアメリカと戦争する道を選ぶのか。大国であり、国連常任理事国でもある中国は北朝鮮とは共同歩調を取れない。もしかしたら北朝鮮と結んでいる「どちらか一方が他国に攻撃された場合、もう一方は自動的に他方を助けなければならない。」という条項のある中朝友好協力相互援助条約を解消する契機と考えているかも知れない。なぜなら北朝鮮に扇動されてアメリカと戦争に突入する余裕と実力は今の中国にはないからだ。また戦争状態になったとき、中国も内乱に陥る可能性がある。なにより世界で孤立する。今の中国は北と結んでいる「安保条約」を重荷と感じ始めているはずだ。中国の制御から離れた北朝鮮の処遇について、すでにアメリカと密約を交わしているかも知れない。

 村上龍の小説「半島を出よ」では日本侵略を目的とする北朝鮮軍が登場する。が、最初の「侵略軍」はわずか9名。その少人数が福岡ドームを占拠し観客を人質に取る。更に押し寄せる北朝鮮軍兵士は簡単に日本上陸を果たしてしまう。政府の弱腰と無策と自衛隊に対する法的整備の不備のため自衛隊は出動の機会さえも与えられない。しかも北朝鮮軍は武装してはいるものの、難民として位置づけされその結果侵略軍は安保条約の範囲外となり、安保条約も発動されず福岡は占領状態になる。

 侵略軍はNHKを利用して自分たちの考えを公開し、次第に共感を感じる日本人が出現する。政府は大阪府警のSATを出動させるが、まともな軍事訓練を受けていないSATなどは簡単に殲滅される。最後は「イシハラ」という老人の元に集まった不良少年たちによって侵略軍は全滅する。

 一見、現実離れしているような小説だ。しかし必ずしも荒唐無稽な小説とばかりは言えない。日本の政治家、民衆、そして自衛隊の置かれている状況を実に見事に突いているからだ。ワイドショー的にはノドンだかウドンだか分からぬミサイルの脅威を強調する方が効果的かも知れないが、現実的には離島の日本人を皆殺しにして島民になりすまし、日本社会の工作をはかろうとする可能性の方が高いのではないか。

 「半島を出よ」にはNHKの女子アナを始めとするマスコミを中心に朝鮮賛美の番組が作られ、報道がなされる。その結果、侵略者であるにも関わらず好意を持つ者さえ現れる。マスメディアによるマインドコントロールが効果を発揮しはじめる。

 小説でも描かれたように市役所の職員や公安にも北朝鮮の協力者は多いはずだ。その工作員が情報を攪乱し、日本人の情報を流し、新幹線や発電所などにテロ行為を仕掛けたり、日本各地を放火する危険性は現実に存在するはずだ。

 皮肉なことに北朝鮮の脅迫によって明らかになったのは、アメリカ軍の基地が、戦争を引き寄せるよりも、むしろ戦争を防ぐ防波堤の役割をはたすという事実だ。戦後民主主義の根幹をなす文化人の多くは、アメリカ軍の基地が戦争の危険を増すというが、実際に尖閣諸島に対して中国が直接的な軍事行動を控えているのは日本の背後に日米安保条約があるからだ。もしアメリカ軍が沖縄からいなくなれば、尖閣だけではなく沖縄も危ない。それはフィリッピンの例でも分かる。孫子の兵法に従えば中国は日本とアメリカの離間を目指すはずなのに、日米の軍事的な結びつきはますます強くなっている。皮肉なものだ。

 南も北も中国も日本が軍国主義だという。軍隊さえ持っていない国が普通程度の軍隊を持とうとするのだ。軍隊があれば軍国主義というのなら南北朝鮮は日本人の感覚ではナチス以上の超軍国国家だ。
ただ私はある意味局地的な戦闘はもはや避けることは出来ないように思う。かつて尊皇攘夷運動に凝り固まった薩摩や長州が欧米諸国に対する考えを一変させたのは局地的な戦闘を行ったからだ。その意味で北朝鮮も局地的な戦闘が必要な時期なのかも知れない。