【団塊ひとり】ISIL(イスラム国)の目的と日本人の心構え

 国会の「論戦」に注意しているが、今のところ「イスラム国」事件に対して野党は政府追及に対して、予想したほど強硬ではない。おそらく日本政府の人道支援を批判することが難しいからだろう。

 今の時点では日本のマスコミ報道には2種類あるようだ。一つは日本政府の対応を非難するテロ集団ISIS (ISIL)の映像メッセージを垂れ流すメディア群。他は「自己責任」をきちんと述べている後藤氏本人のメッセージ映像や、後藤氏の優れた業績を報道するメディア。後藤氏の決意を正しく報道するには、後者こそ日本のメディアが本来流すべき情報のはずだ。

 気になるのは、安倍首相の「過激発言」がISILに人質殺害を決定させた式の発言や報道だ。確かに安倍首相は中東で、そしてイスラエルで「イスラム国」を挑発するような発言をし、彼らをいらだたせた。だからといって後藤氏の殺害が安倍首相の発言にあるという、一部政治家・マスコミ・コメンテーター・活動家の発言はテロ集団を利するもの以外のなにものでもない。
 
 主要マスコミはあまり報道しないが、驚くことに「実の母親」までが、集団的自衛権憲法9条、果ては原発まで持ち出して安倍首相を批判しようとしたが、ピント外れであることは言うまでもない。

 10年ほど前に、「アフガン零年」というDVDを見た。女性蔑視のタリバン政権の中で、生きるために少年に変装し働く少女の物語だ。アフガニスタン復興後のはじめての映画で、日本を始め数カ国が共同制作し、カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール賞を受賞した映画だ。

 正直救いようのない結末だった。女性であることが発覚した少女は、生きるためにタリバンの聖職者に身を任すのである。

 昨年17歳という若さでノーベル平和賞を受賞したMalala Yousafzai(マララ・ユスフザイ)さんは、「女性への教育の必要性や平和を訴える活動」をし、一部保守的なイスラム社会の恨みを買った。が、彼女は同時にイスラム社会に対する無人機を使ったアメリカのテロ掃討作戦をやめるよう、オバマ大統領に求めている。にも関わらずイスラム過激派は彼女を襲撃した。イスラム教徒である彼女は、イスラム社会に戦争を仕掛けたわけではない。ただ、女子にも正当な教育をと主張したに過ぎないのに。
マララさんは、別に日本の集団的自衛権に賛同したり、憲法9条に反対したわけではない。にもかかわらず彼女は襲撃された。テロリストには集団的自衛権も、ましてや憲法9条など何の関係もないのだ。

 殺害された後藤健二氏の著作に、『もしも学校に行けたら アフガニスタンの少女・マリアムの物語』汐文社(2009年)がある。その中で主張されていることは、マララさんの主張と同じだ。女性が男性と同じく正当な教育を受ける。日本人にとっては当たり前のことだ。が、過激派にとってそれは「イスラム教」の教えに背く冒涜行為にうつるのだろう。まして後藤さんは敬虔なキリスト教徒だ。イスラムの過激派にとっては「十字軍」の一員であり、侵略者の手先とうつったのかもしれない。

 確かに安倍首相は中東で、そしてイスラエルで「イスラム国」を挑発するような発言をし、彼らをいらだたせた。そのことの当否を判断する必要はあるかもしれない。が、それは「いま」ではない。「いま」首相の判断を追求し、国論を分裂させたら、それこそISILの思うつぼである。何よりも後藤氏はそれを望んではいないだろう。(続く)