【団塊ひとり】「イスラム国事件」「人生そのもの否定された」「逮捕されたら旅券没収される」旅券返納の杉本さんが会見

 外務省から旅券返納命令を受けた自称「フリーカメラマン」、杉本祐一氏が「報道の自由、取材の自由が奪われ、私の人生そのものを否定された」と述べているらしい。

【引用】・・イスラムスンニ派過激組織「イスラム国」による日本人殺害事件を受け、シリアに取材目的で渡航を計画し、外務省から旅券返納命令を受けたフリーカメラマン、杉本祐一さん(58)=新潟市=が12日、東京都千代田区の日本外国特派員協会で記者会見した。杉本さんは「パスポートの強制返納という事態に直面し、ショックを受けている。フリーカメラマンという仕事を失い、私の人生そのものを否定された」と話し、パスポートの返還を求めて異議申し立てを含む法的措置をとることを明らかにした。(中略)杉本さんは、トルコ経由でシリアに入国し、クルド人の難民キャンプなどを取材する予定だったが、外務省は同事件を踏まえ、イスラム国の支配地域があるシリアへの渡航自粛を要請。杉本さんが応じなかったことから、旅券法の生命保護規定に基づき、旅券の返納を命令し、事実上の渡航を禁止していた。(毎日新聞

 いくら時間がかかっても、すべてを捨てるようなことになっても、信念に基づいて訴訟で争うべきだろう。また、どうしてもシリアに行きたければ、今の時代は旅券がなくても国外に出ることは出来る。北朝鮮の「拉致」に象徴されるように非合法な方法があるからだ。情熱があれば、逮捕を恐れず信念を貫くべきだ。あなたに「共感」(利用)し、あなたを国外に脱出させる政治的な組織はいくらでもある。

 イギリスのジャーナリストがISILの広報ビデオに協力している。マスコミは「強制」されているように報道しているが、ともに拉致された同僚は、すでに殺害されている。ISILの言うことを聞かなかったからだ。生命をかけてテロに屈しなかった点で同僚は立派ではないか。

 最後にはISILの広報員に成り下がったように見える後藤氏も本心はどうだったのだろう。協力すれば殺害は免れると思ったのだろうか。その生への希望を踏みにじるのがテロリスト集団だ。後藤氏の発言は「強制」されたものだったことは、彼が殺害されたことで「証明」された。痛ましいことだ。

 後藤氏の教訓をもとに、いま政府が禁じる危険地域に行こうとする「ジャーナリスト」の本心は何か。真実の追究?スクープ?義務感?金銭的な欲望?名誉欲?売名?それともテロリスト集団に参加するため?それとも政府を追い詰めるため?

 本当に真実を世界に伝えたいのなら、日本政府の支援を当てにしないで密航すればよい。どうせトルコからシリアに入るは密航しか方法がない。「真のジャーナリスト」なら、国をあてにしないで無国籍者になっても、いくらでも行動できるはずだ。

 政府が旅券の返納を命令したのは、「イスラム国」(ISIL)の支配地域があるシリアへの渡航が、事実上密航以外に方法がないからだ。「日本国」のパスポートを使って違法行為を公言するものを、許すわけには行かない。これは「報道の自由」とか「取材の自由」という高尚な次元の問題ではない。とりあえず中国やロシアという国に出国することにして、そこから密航するという知恵は働かなかったのだろうか。あまりにも「正攻法」すぎ、あまりにも稚拙な方法だ。
 
 かつてベトナム戦争に反対するベ平連という団体が存在した。それは左翼を中心とした団体だったが、右翼の一部も取り込んだ不思議な団体だった。しかし、やがて一部の構成員は、ソビエト連邦工作員からの金銭的支援を受けてベトナム戦争を忌避するアメリカ軍の「良心的脱走兵」の逃走支援を実施した。もちろん違法行為だが、北海道や与那国島に行けば、いまでもいくらでも密航の方法はあるだろう。

 ただテロリストは、ジャーナリストをまずスパイとみなすだろう。これは戦前も同じで、昭和13年女優岡田嘉子共産国ソビエトに駆け落ちした共産党員の杉本良吉(本名は吉田好正)は、亡命を受け入れられずスパイとして銃殺された。全体主義国家やテロ集団は、本人が自称する「肩書き」をいっさい信じない。

 朝日新聞社記者であり、ソビエトのスパイでもあった尾崎秀実から、国家情報を得てソビエトに流していたゾルゲの肩書きはドイツの『フランクフルター・ツァイトゥング』の東京特派員であり、さらにナチス党員というお墨付きまであった。

 半世紀前に授業で習った、丸山真男の「であることとすること」が思い出される。彼は日教組の圧倒的な支持を受けてはいたが、全共闘の学生などから、腐敗と欺瞞に満ちた「戦後民主主義」の象徴として激しく糾弾された存在だ。

 今の私とは違って、学生時代の私は「であることとすること」で描かれた考えに大きな影響を受けていた。いま、その論法を「皮相的」に借用するならば、職業として「ジャーナリストである」ことは、「真のジャーナリスト」であることを保証しない。

 この混沌とした変化の時代に「真のジャーナリスト」を見つけることは難しい。強制された環境で、なおも自己を失わず抵抗することはもっと難しい。最後は不本意にも、テロリストに迎合する発言を残さざるを得なかった後藤氏。だからこそ危険地域に密航したり、自己を過信して状況を楽観的に判断することは避けなければならない。テロリスト集団が日本および日本人に対してすでに「宣戦布告」をしたと言うことを、もっと重く受け止めねばならない。彼らには日本の左翼も右翼も関係ないのだから。
違いますか、みずほさん。