【団塊ひとり】チャップリンの映画「独裁者」とSF映画「アイアン・スカイ」

 米SFドラマ「スター・トレック」で耳がとがった「ミスター・スポック」を演じた米国の俳優レナード・ニモイさんが死去した。地球人とのハーフであり、それゆえ人間的な感情を否定しようとする異星人の役割だったが、私は逆にそのことが妙に人間くさくて好きだった。若い頃は深夜に放送されていたTVシリーズを、電気を消して暗くして鑑賞していて、それがさらに作品の世界に不思議な現実感を与えていたような気がしている。冥福を祈ります。

 高齢になると、頻尿になって困る。寝床について起きるまでに、一度はWCに通う日が当たり前になってきた。今朝も朝の3時過ぎに、WCのために起きてしまった。その後、何気なくつけたTVで見た「アイアン・スカイ」という番組が面白かった。「2012年2月11日より第62回ベルリン国際映画祭で初公開され、2012年4月4日にフィンランドで劇場公開、日本では2012年9月28日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他で劇場公開された。」とウィキペディアの説明にある。映画のことは全く知らなかった。1945年のドイツ崩壊で滅亡したはずのナチスが月の裏面に移住し、再び地球征服を狙うという荒唐無稽な内容だ。すぐに寝るつもりだったが面白く結局最後まで見てしまった。

 月世界で繰り広げられるナチス「第4帝国」の洗脳授業では、なんとチャップリンの「独裁者」が教材として使用されていた。が、それは「ナチス」に都合のよい部分を10分ほどにまとめ上げた作品だった。月世界に生きる「第4帝国」の世界では「第3帝国」に対する反ナチス映画も、ナチスのプロバガンダとして使用される、「愛」を主張する映画として若者の宣伝に利用されるという発想が秀抜だ。

 映画「独裁者」を「愛」を主張する短編と信じ込んでいた女性教官が、「密入国?」した地球でオリジナルを見て衝撃を受ける場面がなんとも象徴的だった。変なプロバガンダより強いメッセージになっている。狭い範囲で信じられていた偏った思想や「事実」が外の世界で相対化され、より真実に目覚めてゆく好例だ。

 「第4帝国」が地球侵略を開始する契機がまた面白い。月世界に降り立ったアメリカの宇宙飛行士が持っていたスマホの優れたPC能力が、「ナチス」の最終兵器の完成に役立ったという設定だ。

 さらに抱腹絶倒なのが、国際会議における北朝鮮の発言だ。突然現れ地球を攻撃する「ナチス」のUFO型戦闘機を、あれはすべて北朝鮮のオリジナルで・・と北朝鮮代表が得意げに語り始め、国際会議の出席者が全員で笑い転げる場面では、眠気がすっかり飛んでしまった。B級のコメディ映画と思っていたがお笑い映画も馬鹿に出来ない。遠い極東の小国の動向を、欧米人は冷静に判断していたことがわかった。

 北朝鮮は最近のハリウッド映画「ザ・インタビュー」にも描かれ、「日本沈没」のB級パロディ「日本以外皆沈没」でも、大活躍している。発言や行動の面白さでは、北朝鮮はコメディの宝庫だ。世界の空気を読めない小国韓国も、コメディセンスでは北朝鮮の足下にも及ばない。

 映画の世界では日本もすでに立派な軍事大国だ。「アイアン・スカイ」でもアメリカや中国と同様に、国連協定を破り密かに宇宙軍を保持していて、侵略するナチスUFO と戦闘する。韓国映画ユリョン」では、海上自衛隊には原子力潜水艦が存在することになっている。民度の低い国の国民が見たら、きっと信用するだろう。

 戦前の日本帝国の軍隊では、開明的な海軍より陸軍の方が古参兵の暴力が過酷であったと思いがちだが、実際は海軍の方が徹底していたと聞いたことがある。陸軍では戦闘のさなかに、後方の味方から撃たれる危険が発生するが、海軍ではそれがないからだ。だから、絶対に手出しをしない、出来ないと悟られると逆に危険が増大する。

 戦後の中国はまるで戦前の日本のように「侵略的」だ。「アイアン・スカイ」では、単にナチスを滑稽に描くだけではなく、アメリカをはじめとする自由主義陣営とナチスとの境界が意外に近いものとして描かれている。戦後アメリカの好戦性はナチスのそれに劣るものではない。映画を見ていると「ナチス第4帝国」がいつかしかアメリカと重なってくる。「アイアン・スカイ」の制作国は、フィンランド・ドイツ・オーストラリアだ。少し納得する。

 ならば、日本映画もドイツ映画界の勇気にならって帝国陸・海軍や軍人を「喜劇的」に描く映画を作ってみたらどうか。そのときは関東軍の思想が人民解放軍に、満州国建国の精神がチベット自治区」の創設に生かされているという描き方が必要だ。共産党指導者が日本軍の組織や戦術を学習していたことは全く荒唐無稽の話ではないからだ。ある意味で戦前の日本軍部の動きは戦後中国にとって、一種の「鏡」のような働きをしている。


 戦後中国が夢見る「中華帝国の再興」も「アーリア人の帝国」を夢見た、ナチスと似ていなくもない。もっとも人民解放軍関東軍のコピーだと言えば日中双方から批判される危険は存在するだろうが。